言葉が本来の意味とまったくちがって使われてしまうことはよくあることで、日本語にとりいれられた外国語に顕著です。Wikipediaの"和製英語"のページに誤用の例がまとめられています。
タイトルにあげた「モラルハザード」もまちがってつかわれており、メルマガ翻訳通信によれば、"分かりにくい外来語63語について言い換えを提案"している"国立国語研究所"なる部署がそのまちがいをさらにひろめていることを指摘しています。
→翻訳通信12号バックナンバー "片仮名語の悲惨 - 「モラルハザード」と職業倫理の欠如"
国立国語研究所による書き換えの提案は、これで、
少年たちによる殺人事件の多発,モラルハザード〔倫理崩壊〕が叫ばれる大人社会,自己中心性の肥大化など社会病理現象があらわになっている。
翻訳通信でとりあげられた新聞のコラムがつぎのもの。
オウム真理教の松本智津夫被告への死刑求刑に至る七年を振り返ると、その残忍で凶悪な犯行を生んだ時代に思いがゆく。バブル崩壊と若者を取り巻くモラルの空洞化。「倫理の欠如」と訳されるモラルハザードが社会の隅々に及んだ
「倫理欠如」「モラルの空洞化」としてつかわれているけれど、本来の意味は、翻訳の仕事もしている山形浩生さんのサイトのコラムがくわしい。
→各種の噂 2006/2のところ
よかれと思って作られた制度や仕組みが、かえって、積極的に、悪事をはたらくインセンティブを作ってしまう
インセンティブというのはここでは"要因"と訳すのがいいでしょう。
モラルハザードを理解するポイントは山形さんが指摘しているように"「かえって」とか、本来の意図とはちがって、というあたりの有無"。
さて、さいしょの翻訳通信の記事にもどってみましょう。
モラルハザードという言葉が日本でつかわれるようになったのは、金融危機がおこり政府がつぎつぎに対策をとったことにたいして"アメリカを中心とする欧米の当局者や経済学者、エコノミストから、moral hazardに注意すべきだとの意見が出された"から。そして、日本の官僚や学者、評論家が、意味も理解しないままモラルハザード、モラルハザードとくりかえしたからです。
アメリカのエコノミストがいうモラルハザードは、金融危機の対策が「かえって」金融危機を誘発する環境をつくりださないか、ということです。
健全な金融機関は危険をおかさないように低金利の金融商品しかつくりません。リスクが高くなるほど金利は高く設置されます。政府が保護政策をたてると、その保護をあてこんで、一般消費者は金利の高い金融商品に金をだすようになります。経営者もとうぜん売れる金融商品をあつかうようになります。保証されているがゆえに、リスクの高いものへ高いものへと志向が進んでいくわけです。とうぜん、金融危機の可能性が高まります。よかれと思った金融危機対策が「かえって」金融危機を誘発するという、これがモラルハザードです。
モラルハザードの意味すこしでもわかっていただけたでしょうか。翻訳通信が指摘する「国立国語研究所のモラルハザード」も。上手に落ちがついております。