日本古典文学幻想コレクション1 奇談
日本の古典の中から、実際にそれがあったかはともかく、こんなことがありましたよと語られている不思議なできこと、怪しいできごとが収められています。この奇談、須永さんのあとがきによれば、中国の文芸用語でいうところの「志怪」に近く、これより虚構の色合いが濃くなると「伝奇」となるそうです。
漢文に仮名をおぎなって読みやすくするのを書き下しといいますが、須永さんの訳も、その書き下しに近いやり方で、原文を現代語でおぎなう形をとっています。また、もともとが仏教説話なので説教臭い部分は大幅に省いて、物語中心の訳にしています。
今昔物語集の一角仙人の話を訳の例にあげます。原文は、京都大学電子図書館のものです。
其ノ時ニ、諸ノ龍王、喜ビヲ成シテ水瓶ヲ[クヱ]破テ空ニ昇ヌ。昇ヤ遅キト虚空陰リ塞ガリテ雷電霹靂シテ大雨降ヌ。女、立隠ルベキ方無ケレドモ還ルベキ様無ケレバ、怖シ乍ラ日来ヲ経ル程ニ、聖人、此ノ女ニ心深ク染ニケリ。
須永朝彦訳(p.27-28)
その時、諸々 の竜王達は喜び勇んで水瓶を蹴破り、空に昇った。忽ちにして虚空は暗雲に鎖 され、稲妻が閃き雷鳴が轟く中、豪雨が降り注いだ。女は、目的は達したものの、立ち隠れる所もなく、また還るべき手だてもないので、怖いと思いつつも仙人の許 に止 まらざるを得なかった。仙人は、この女に心から惚れてしまった。
須永さんの文章はリズムがとてもよくって漢字が多くても読みやすいんですよね。この文章を体得できたらなどと大それたことを考えたりするんだけど、そううまくはいきません。



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