「メトロポリス」「M」などで知られる映画監督フリッツ・ラングが制作中の「オデュッセイア」の脚本の書きなおしの仕事の依頼を受けたポールは愛する妻カミーユとともにローマ郊外にある映画撮影所チネチッタへとおもむく。ポールは、アメリカ人のプロデューサー・プロコシュとの会合中、妻のとの関係がぎくしゃくし始めたことに気づく。「映画とつきあい始めてから、あなたは変わってしまった」。べたべたに熱愛していた夫婦が、急激にうまくいかなくなる瞬間を描いています。
ゴダールは良くも悪くもオタクなので、さまざまな映画や古典文学などいろいろな知識を引用して映画を組み立てていきます。
オデュッセイアをテーマとした映画に関わっているので、オデュッセウスとその妻ペネロペ(Wikipedia:ペネロペ)の話題は、ポールとカミーユの関係に対比されます。そして、当時のギリシアの精神と現代の精神の違いも言及されます。
映画撮影所では貼られている映画のポスターが意味深長なメッセージを送ります。
また映画製作そのものへの皮肉もこめられいます。この中にでてくるプロデューサーは、むずかしいのは大衆は好まない、作品にもっと裸を入れろ、などと注文をつけますが、この「軽蔑」自身も、裸を入れろと注文を受け、ベッドに寝そべったバルドーの裸体のショットが後から挿入されています。
こういったトッピングがほどこされているので、マニアのひとの衒学的な好みにも応えているし、映画自身は実は込み入ったものではなくてシンプルにストーリーが流れていくので元ネタがわからなくても充分たのしんでいけます。恋愛の映画なんですよ。もう単純に、ポールが妻カミーユに嫌われるのは当然なんですよね。プロデューサーがカミーユに気があるのでご機嫌とりのように、まるで枕営業でもしろといっているかのような態度をとるし、自分の仕事なのに君が決めろよと責任逃れのようなことまでいいだす始末。なさけないんです。
映像は美しく、とくに色彩のセンスがすぐれています。
演劇的な、一瞬にして切り替わる場面転換が効果的に使われています。
ゴダールのすぐれているところは、ありのまま、ということにこだわらないところでしょう。ゴダールの若いころは、自然主義やリアリズムが主流だったようですから、その表現はとても革新的でヒップホップ的なヒーローであったように思われます。
それから、映画の中にゴダール自身もでています。映画のクルーの中に、ねずみ色のジャケットと帽子と赤いシャツで、ちょこちょこと目障りに動きまわる、ひょろっとした男がいます。彼がゴダールです。
この映画はゴダールの最高傑作ではありませんが、自分はいちばん繰り返し観ていて、またなんどでも観たい映画です。
"軽蔑"
監督 ジャン=リュック・ゴダール
出演 ブリジッド・バルドー、ミシェル・ピコリ、ジャック・パランス、フリッツ・ラング ほか
2625円
