2009年5月 8日

クアトロ・ラガッツィ ­­― 天正少年使節と世界帝国

Amazon.co.jp: クアトロ・ラガッツィ--天正少年使節と世界帝国: 本: 若桑 みどり 遙か海を越えて欧州から戦国時代の日本へやってきたキリスト教宣教師たちがいました。かれらが残した記録をもとに、外国人の視点から当時の日本の姿をよみがえらせます。
 歴史好き、戦国時代大好きなひとにおすすめです。
 日本のできごとばかりではなく、宣教師たちの母国のようすや、教会の立場、実権を握っている人たちの影響など、背景となることまで書かれているので、「どうしてこうなったのか」という状況を把握しやすく、歴史を探るおもしろさにあふれています。
 キリスト教徒には、どうかな、おもしろいのかな? 陶酔的なものじゃなくて、現実的なものが読みたいのならおもしろいんじゃないかと思います。

 外国人視点での織田信長は非常に凄みがあり怖さも感じます。性格は寡黙で気性が激しく癇癪持ちだというのでその場のつきあいを考えると難しそうなひとなんですが、目標に向かって突き進み、敵と味方の判断がきっちりしているので、意外とわかりやすい人物でもあります。じかに会ったときに怒られたりしても気にせず、相手の目標を見据えて行動していけば大丈夫な感じです。もちろん、彼の目標のために目標のためにと行動するので一生彼の部下でしかいられませんが。自分のために(違う価値観で)行動するなら謀反(敵になる)しか取る手はありません。中央で三度謀反が起こり、三度目に謀反は成功、信長は殺されてしまうわけです。
 
 信長はキリスト教の守護者となりますが、それは当時、強大な権力を持っていた仏教勢力に対抗するためでした。キリスト教は朝廷を敵に回してしまったために京都から追放の憂き目をみていました。信長は最初は様子見をしていましたが、機会あるごとに教会の後押しを進め、信長の時代が、キリスト教布教の絶頂期となりました。しかし、信長にしてみれば、キリスト教は仏教・神道を相対化するための道具にすぎなかったようで、後日、自分を神として崇める寺院を建てています。
 また、宣教師を外国との窓口とも考えていたようです。海外の情勢を知ることができる情報源であり、逆に自分のことを海外の国王に知らしめる役割を宣教師に期待していました。信長の野望である「アジア征服」への水先案内人になっていたのでしょう。
 信長が殺されていなかったらアジア征服できていたでしょうか?
(時代考証がでたらめなインチキサムライ物の創作の舞台に、信長がころされなかった世界がいいんじゃないかと思って、創作友達のMさんに訊いたら、そんなのよくあるじゃない、と一蹴されました。言った本人はいつものごとくそんなこと言ったっけ?状態だと思いますが。海を渡るサムライ、南の島のサムライ、砂漠のサムライ、外国の兵と戦うサムライ。政治状況も陰謀渦巻くし、魔術・妖術も似合うだろうし。うーん、悪くない気がするんだけど、プロになろうとしているひとの厳しい目でみるとつまんないのかもしれません。たしかに殺されなかった信長自身を描いたらつまらないと私も思います)。

 日本でのキリスト教布教の絶頂期(本能寺の変の4カ月前)に出発した天正少年使節は、その空気が変わり始めた秀吉の時代に日本に帰ってきます。そして、キリスト教迫害を体験することとなります。
 本のタイトルにもなっているので、天正少年使節の全般にわたってくわしく書かれています。
 意外だったのは、その天正少年使節の当の少年が使節として本当にふさわしいのか、というのが当時から現在にかけてまで問題になっている、ということ。
 この土地で受け入れられている証明として領主の子息クラスの人物を送る、ということになったのですが、この少年はそうではないのではないかとクレームがでたわけです。
 生きて帰れるかもわからない長旅に、大名としては跡継ぎを出すことはありえないわけです。そのために代理をたてるわけですが、東インド管区の巡察師という偉い立場にある宣教師がそれを選びました。大名家の関係者は関わりませんでした。そのため宣教師が代表をねつ造したのではないか? それどころか大名はこの使節のことを知らなかったんじゃないか?(少なくとも、領主の代表としての使者であるということを聞かされていなかったののではないか?) という、うがった見方が生まれました。
 現代は歴史家による検証だけど、当時は内部告発。おとしめてやろうってわけですよね。キリスト教の組織内部で。救われないひとはなにをしても救われないってことですか。

"クアトロ・ラガッツィ ― 天正少年使節と世界帝国"
若桑みどり
集英社
3990円(文庫版 上980円 下900円)
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