チャイルド44

スターリン体制下のソビエト。いまよりはるかに厳しい恐怖政治によってひとびとは管理支配されていました。
共産主義国家は、資本主義国家の欠点・矛盾をすべて乗りこえており、ここでは犯罪など起こりえません。ほしいものがあれば自分で手にすることができます。金持ちが独占していることなどありません。「持たざる者」が「持てる者」から暴力をもちいて奪いとる必要などないのです。殺人もありません。ましてや快楽殺人などありえるはずがありません。それは資本主義社会の矛盾が生みだした病理なのです。
……そうした理想を守るために、ひとびとは脅され、逮捕され、拷問を受け、処刑され、あるいは強制労働施設に送られ命を落とすことになります。
国家保安局が理想を守る城でした。有能な捜査員だったレオは、同僚の罠にかかり失脚。片田舎の警察に左遷されます。そこである殺人事件に出会います。衣服をはぎ取られた少女が腹を割かれて無残なありさまで見つかっていたのです。犯人はすでに確定済み。知能障害をもつ男性によるものでした。しかし、それがそうでないことにレオは気がつきました。その事件とおなじような事件をしっていたのです。国家保安局員だったときにレオがもみ消した事件でした。
殺人事件など起こりえないという大前提を掲げる社会のなかで、連続殺人鬼に立ち向かおうとするサスペンスです。
殺人は無いことになっているので、捜査をすること自体が非常に困難です。国民をいたずらに不安に陥れ社会に混乱をまねこうとする「工作」おこなっているとして逆に逮捕されてしまうのがおちです。
犯人は自由にうごけるが、捜査員は身動きがとれない。犯人にたどりつくためには国家権力と戦わなければいけない。
こうして描かれていくのは、恐ろしい管理社会です。みなさんのなかには自分が国家権力のトップにあって自由に社会をつくりかえることができるならば、みんなが幸福になれるすばらしい社会、すくなくとも今よりはましな社会がつくれるだろうと考えるひとがいるかもしれませんが、共産主義社会というのはまさにそういうものでした。すぐれた指導者がわれわれを幸福に導いてくれる世界。地上の楽園です。もちろん、管理社会は共産主義だけのものではありません。一休さんではないですがご用心、ご用心です。
物語の演出もおもしろく、いままで見えていたのとはまた違う側面が見えてくる手法をじょうずにつかって、どきどき感を高めています。これは犯罪捜査という小説のジャンルとの相性がいいし、物語の舞台である自分を偽らなければ生きてはいけない世界との相性もばっちりで、高い効果をあげています。相手を信じて、その愛情を信じて、つらい道を選択したのに、じつは愛なんてなかったとなったら愕然とさせられます。この先どうやってやっていけばいいんだと一気に不安が押しよせてきます。心配で心配でつづきを読まずにはいられません。
ちょっと欠点かなと思ったのは、終盤の展開が大きくなりすぎるところ。シリアスな推理物だったのが冒険小説になっちゃったかな、という感じでやりすぎの印象がありました。それと登場人物のひとりが意味ありげに終わってしまってるところが中途半端だなと思いました。この人物は、でもこんなふうに処理しなければ犯人に殺されているであろう立ち位置にいるのでしかたないかとも思います。殺されてしまうとラストがきつくなるし、あつかいが難しいキャラクターです。(あとで気づいたんですが、このシリーズの続編がすでに刊行されていました。伏線になっているんだったら、意味ありげで、あまり問題はないですね)。







