2011年1月27日

宮城谷昌光 『三国志』 第5巻

三国志〈第5巻〉 (文春文庫) この巻では、曹操対袁紹の決戦がおこなわれます。
 物語の始まりは、対決よりもすこし前からとなり、袁紹は、公孫瓚を追いつめ、北東一帯を手中におさめ、この時点で最大の勢力になっていました。
 この公孫瓚、劉備の学友であり、いっしょになって勉強もせず遊びまわっていた人物で、一時期は白馬将軍などと呼ばれ名声を高めておりましたが、やがて性格の悪い部分をどんどん表に出すようになります。金持ちや高貴な生まれの人物をみるとかならずいやがらせをする。それは、そういう人に良くしてやったりしても、それを当然と考え、感謝しないからだ、ということらしい。そして、あまりできのよくない、つまらない人たちばかりを優遇していました。また、部下も助けにいかない。それは、救援をあてにして戦わなくなってしまうからだ、ということで、こんなことばかりしていたので、人は彼から離れていくようになりました。袁紹に追われ、岩壁の割れ目に鉄の扉で門をこしらえ引きこもってしまいます。十年もこもっていれば、みんな争いあって滅びてしまうよ、と公孫瓚は思っていたようです。もうそんなやつ放っとけばいいのに袁紹はそこをしつこく攻めつづけます。うんざりした公孫瓚は援軍を求め使者を送りますが、その使者は袁紹軍に捕らえられ、公孫瓚をひっかける計略に利用されて、援軍が来たとおもって外に出てきた公孫瓚の軍勢は壊滅。公孫瓚はなんとか逃げもどりますが、その後、頭がおかしくなり、さいごは家族をころし、自らの命を絶ってしまいます。惨めで悲惨極まりない公孫瓚ですが、若き日の栄光と転落、小さな器、狂気、――物語の題材としてはおもしろそう。

 他方、曹操はというと、軍事上の要衝である都市・宛を押さえるための遠征で、賈詡の策をうけた張繍の奇襲を受け大敗、多くの兵を死なせ、長子・曹昂と頼りにしていた親衛隊長の典韋を失いました。
 張繍は、前の族長である今は亡き張済の妻を曹操が妾にしたので恨み、それを曹操が知って殺そうとしたので奇襲をかけたということになっていますが、宮城谷版の三国志ではそのエピソードはとりあげられていません。降伏時に兵を移動させるといつわっての奇襲となっています。なぜとりあげられなかったかは不明。張繍はあとでまた曹操に降伏しわりとすんなりと部下になっているので、近親者を絡めた確執があるこのエピソードは不自然な気がします。曹操にしても、女性関係での失敗はこれだけのようですし、降将の一族に恥をかかすようなまねをするようなタイプでもありません。
 なお、このとき袁紹は敗れた曹操にむけて皮肉をこめた手紙を送ったそうです。いやなおっさんです。

 皇帝である、献帝は、やはりというかもはやというか、質が悪い。後漢を崩壊させていった悪癖をまだつづけています。曹操に保護されたと思ったらすぐ、その曹操を殺そうとしています。国や民のことは考えておらず、皇帝なんだから自分が一番だろみたいなことばかり、しかも情勢がまったく見えていません。曹操を殺したら、袁紹が来て、もっと悪い状況になります。傀儡ならまだしも、早い時期に殺されてしまっていたでしょう。仮に袁紹がこなかったとしても、曹操の暗殺をおこなった者たちが実権を握ったことでしょう。

 劉備はあいかわず逃げ足が速い。勝てないとわかると即です。しかも、すべてを捨てて、ひとりで逃げてしまうのがまたすごい。関羽が曹操の部下になるエピソードは有名ですが、これもひとりで逃げてしまったからです。なんの指示ものこしていかなかったので関羽はもうどうしようもなくなってしまっています。よく呆れてしまわなかったものだと思います。 *1
 すぐ裏切ってしまうのも特徴なのですが、これは、自分が主人である(上に立つ)という意志が強かったせいなのだと思います。将来、大成するにせよしないにせよ、危険な存在です。曹操の参謀らが劉備を始末してしまおうと進言するのも納得がいきます。
 勉強もぜんぜんしないし、「御輿(みこし)は軽くてパーがいい」というのは言い得てる言葉なのかもしれません。

"三国志〈第5巻〉"
宮城谷昌光
文春文庫
630円
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コミPo!つかってみました。三国志をTwitterにたとえたら…という無理めな出だし。最初からオチなし…

*1: この時期、劉備に置いてきぼりにされ、呂布の捕虜になっていた劉備の「妻子」って誰なんでしょう? 妻は甘夫人ぽくはありますが(演義では関羽が甘夫人を連れて曹操に降伏している)、子どもが年齢的に劉禅ではありえないので違います。糜夫人は、劉備の妻子が呂布に捕虜にとられた後に妻になっているので違います(ちなみに、甘夫人は側室ですがこれは妻になった順番ではなく身分によるものです)。歴史に残らなかった別の夫人か、もしくは「妻子」は「妻と子ども」ではなく「妻」だけを指す言葉なのか?

2011年1月 9日

ホミサイド 殺人捜査課 シーズン1

ホミサイド 殺人捜査課 シーズン1 DVD-BOX
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 ホミサイド(Homicide)とは、殺人、殺人事件という意味で、ここでは、ホミサイド=殺人捜査課の意味も当てられています。番組タイトルも「ホミサイド殺人捜査課」とつづけて読むのではなく、「ホミサイド/殺人捜査課」と区切ります。

 10年~20年まえにやっていたテレビドラマで、アメリカ、ボルチモア市警察殺人捜査課の刑事たちを描いた群像劇です。
 場面ごとにスポットがあたる人物が変わり、同時に複数の事件、できごとが起こり、断片的に進行していきます。『ER』のやり方といえばすぐにわかる方も多いと思いますが、この方式のドラマのルーツはこの『ホミサイド』です。

 殺人事件ものですが、推理的要素はありません。現場に行く。関係者の話を聞く。犯人がわかる。それで事件はほぼ解決となります。長くなっても容疑者の尋問で終わるのがつねです。

 だいたいは刑事たちの会話で話は進みます。事件よりも刑事が主体といえるでしょう。キャラ主体なので、とうぜんのように個性の強い面々がそろうことになります。
 妙なことにこだわってあきれるくらいそのことばかりしゃべっている刑事や、ふつう二人組で捜査をするのに、相方を持つのをいやがる一匹狼の刑事、リンカーン暗殺の陰謀話が好きな刑事。
 キャラクターの色づけは、マンガ的ともいえるし、ワンシチュエーション・ドラマ的でもあります。

 キャラ主体とはいいながらも、ときには事件を長く追うようにじっくり描いてゆき、テーマやメッセージ性を明示的に強く打ち出すこともあります。

 海外の刑事ドラマが好きなで、まだ見ていない人に絶対におすすめです。

"ホミサイド 殺人捜査課 シーズン1"
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2011年1月 3日

おろち

おろち [DVD]  楳図かずおの漫画『おろち』を原作にした実写映画です。

 原作と同様、ホラー性は少なく、年をとらない女の子"おろち"を傍観者・語り手・狂言回しとして、人間の妄執の悲劇を描いています。美にとらわれ、親の愛にとらわれた姉妹の物語です。

 傍観者であるはずのおろちが、別の女の子として、強制的に物語に引き込まれるところから、奇妙な空気が生じます。なにか小さな世界がほんとうにそこにうまれでてきたかのようです。傍観者=観客である自分も、中に少し引っ張られてしまったような錯覚が起きたのでしょう。この映画の力です。

 原作とずっと比較してしまうと文句もでてきますが、いくぶん距離をとるように意識すれば、なかなかにおもしろい作品です。

"おろち"
監督: 鶴田法男
出演: 木村佳乃、中越典子、谷村美月 ほか
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2011年1月 2日

ネッシーに学ぶ生態系

ネッシーに学ぶ生態系 ネッシー本ではなく、ネッシーについての文章を「つかみ」に、湖沼の生態系がどういうものであるのかを説明している本です。
 「出だしは奇抜に」という作文の指南書そのまんまの作りです。ネッシー本だと思って読んだ人はやがてネッシーの話題がぜんぜんでなくなってしまうのでがっかりするでしょう。でも、科学的検証の資料にはなるので一度目を通しておくのは悪くありません。食物連鎖の関係に着目して「食料はたりるのか」を計算しています。これなら、隠れんぼがじょうずなネッシーを見つけなくても、だいじょうぶ。

 読みやすい文章をつかって、わかりやすく説明してあるのですが、読んでいて「なんだか」つまらないのが欠点。
 読書家にはおすすめできませんが、しかし、環境保全の活動をしている方または興味がある方は必読です。
 環境保全をしている人の大きな間違いがいくつか指摘されています。
 「魚が水を汚す」なんてふつうは知りません。生き物を増やして川をきれいにしようと魚の放流をするというのはときどき聞きますが、これが逆効果だなんてまず気がつかないでしょう。自然ってむずかしいです。
 (これが主題なので、本のタイトルは内容を完全に外しています。これが最大の欠点か)。

"ネッシーに学ぶ生態系"
花里孝幸
岩波書店
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