2004年8月30日

慟哭

4488425011.09.MZZZZZZZ.jpg胸に穴があいたような悲しみにとり憑かれた男は距離をおきつつも新興宗教にのめりこんでいく。その様子を書いた章と、連続幼女誘拐事件を捜査する刑事たちを書いた章が交互に進行していきます。犯人はおそらく、さいしょの男。やがて、彼の悲しみの原因がはっきりする。娘を失っていたのだ。カバラの教義をもとにした宗教団体で死者復活の奥義にふれた男は、娘の復活を試みる。

犯人は、登場人物の誰か、しかもいちばんそれらしくないひとというのがミステリーの逃れられぬ運命。犯人が誰かわかることはじつはそれほど重要ではありません。意外性は、犯人でないように描かれた部分が角度を変えると彼が犯人であるという証拠に一瞬にしてすがたを変える瞬間。その仕掛け。にあります。

意外性以外のミステリーの味わいは、犯行の動機や、犯人の人間像にあります。

この「慟哭」は、その二種類の味わいが、多少あまくはありますが、たのしめます。

私は、犯人が明らかになる瞬間よりも、最後の三行にハッとさせられました。

"慟哭"
貫井徳郎
創元推理文庫
756円
Amazonアソシエイト

2004年8月15日

ユーモア小説もいけます!(平面いぬ。)

4087475905.09.MZZZZZZZ.jpg4篇からなる作品集。
表題作の「平面いぬ。」は、肌にいれた小さな刺青が生きているように勝手にうごきだすお話。
さいしょは怖い話かと思っていました。
刺青というと、私はブラッドベリの短篇を思いうかべます。全身に彫られた入れ墨がぐらんぐらんうごきだす。思いうかべるわりにぜんぜんその短篇のストーリーが思いだせないんですが、ギラギラしたまなざしの筋肉質の男性の肌にうごきだす刺青がー、のイメージだけはつよく思いうかびます。
胸が悪くなるようなおどろおどろしい話のイメージで読みはじめたんですが、とんでもない。
主人公で、話者でもある、高校生の女の子が、すごいすっとぼけた能天気な性格なので、さいしょからさいごまで、笑える、ほのぼのとした小説になっていました。屈折しているけれど、それだけに心暖まる家族愛も描いていたりして、いい作品です。

ほかには「石ノ目」。これは、民話にでてくる妖怪をモチーフにした作品。

そして「はじめ」。想像の中だけにいた女の子が実際にあらわれて、というホラーにありそうなモチーフを、せつない青春小説にしあげています。とても仲良かったけれどもう会えなくなってしまった幼いころの友だち、のストーリーですね。

それから「BLUE」。なにかのきっかけで命があたえられ生きるようになったぬいぐるみのお話。ぬいぐるみの設定、ぬいぐるみが買われていく家族の設定、とくに弟のキャラ設定が乙一さんらしいと私は思います。前半がちょっと同人小説ぽい冗談とキャラ設定がありますが、後半はしっかりしています。

なかなかバラエティーに富んだ作品集になっています。
さつないのもあるし、怪奇趣味+トリックもあるし、ユーモアもあるしで、さいしょに読むのにいいかもしれません。

"平面いぬ。"
乙一
集英社文庫
620円
Amazonアソシエイト