2005年2月21日

網野善彦

4087202690.09.MZZZZZZZ.jpeg網野善彦さんを知ったのは教育テレビでやっていたNHK人間大学という番組でした。網野さんは1996年の1月から3月まで「日本史再考」のタイトルでお話をしていました。
「日本は単一国家ではなかった」
「日本は島国だからという孤立イメージ(島国根性、独自文化)があるが、島国というのはけして孤立しているものではない」
「百姓=農民ではない」
「一向一揆の主力は都市民で、貧しい農民の反乱ではなかった」
など、静かだけれども確実な手さばきで、新しい歴史像をみせてくれました。とてもたのしい番組でした。

それから、網野さんの本を読もう読もうと思ってきたけれども、気がつけば一冊も手をつけてきませんでした。

網野善彦さんは2004年2月27日に亡くなられました。

網野さんの甥にあたる中沢新一による網野善彦さんの人物像と彼が考えていたことが書かれた本が「僕の叔父さん 網野善彦」です。中沢新一さんは宗教学者として有名です。現代思想の新しい流れにいる人です。
権力が手を触れられないアジール(避難地)。幕府など権力の発展史・盛衰史としてしか描かれてこなかった歴史をアジールの立場からみる。そうすることがどうして必要なのか。そうするとどういう歴史がみえてくるのか。
そして、もうひとつ天皇制について。なくせる機会がなんどもあったのにかかわらず、なぜ天皇制はつづいてきたのか。すべては天皇を維持する・高めるためめの発展史だという物語を語る戦前の皇国史観を批判してできあがってきたはずの歴史観でもその謎解きはできませんでした。天皇制への挑戦。
アジール、天皇制、このふたつを主要なテーマとしてとりあげています。

また、中沢さんの父親がコミュニストであったということから、戦後まもなくのコミュニストがどういった人間だったのかがわかるのもおもしろいところです。

"僕の叔父さん網野善彦"
中沢新一
集英社新書
693円
Amazonアソシエイト

2005年2月13日

暗黒童話

4087476952.09.MZZZZZZZ.jpeg片目と記憶を失った女の子、菜深(なみ)。眼を移植されたときからふしぎな映像を見はじめる。それは眼の元の持ち主の記憶。……菜深はやがて地下室に監禁されている少女の映像を見る。大きな屋敷の地下室の天窓から頭だけだして袋につめられた少女のすがたがあった。袋は小さく、少女の手足がそのなかに入っていることなどありえないことだった。大きな瞳はまばたきを返した。物音に気づいた記憶の持ち主はその場から逃げさり、道を走ってきた車にひかれてしまう。ほかには誰も知らない事実。菜深は真実を知ろうとその場所へ旅立つ。

菜深は、いぜんはとても優秀で人柄もよい女の子だったけれど、記憶を失ったあとは勉強も運動もできず人づきあいも苦手な女の子に変わってしまいます。母親はこんな娘ではないといらいらして、さいごには口もきかなくなってしまいます。和解なし、完全拒否はリアルに感じられました。
菜深は家を出て、ちょっとずつ調べていった眼の持ち主が住んでいたところ、映像にみえる場所へと旅にでます。この菜深の物語です。

誘拐犯がでてくる場面が怖いです。「GOTH」にでてくるタイプの人間です。おどろおどろしく書かず、淡々とした描写に恐怖がこみあげてきます。正直いって、この人間を描ける、作者への恐怖です。同時に、菜深も描かれているので、そのまま作者像にはなりませんでしたが。

仕掛けはあいかわらずうまいです。手品のような、ほかへの注意の誘導が上手ですね。大がかりではない仕掛けも、それだけで終わらず、さらにもうひとつひかえているので満腹感がえられます。

"暗黒童話"
乙一
620円
集英社文庫
Amazonアソシエイト

2005年2月 2日

さみしさの周波数

404425303X.09.MZZZZZZZ.jpeg乙一氏の作品集、「未来予報」「手を握る泥棒の物語」「フィルムの中の少女」「失はれた物語」の四つの短篇がおさめられています。

「未来予報」は、おれは未来のできごとをあてられるんだという友だちが、主人公とおなじクラスの女の子がどちらかが死んだりしないかぎり将来かならず結婚するぜ、と予言する。ふたりは意識しあうようになり、言葉もかわさなくなってしまう。読みおわると、悲しみと同時に、ふたりのつよい愛情に、心があたためられます。

「手を握る泥棒の物語」は、自分がデザインした時計の新作を売りにだしたいが元手にこまった青年が、自分の住む町に旅行にきていた金持ちの叔母がもってきていた現金を盗もうとするお話。こうなるんじゃないかなと予想した結末をちょっとずらすテクニックがうまい。それでいいラストにもちこんでいます。

「フィルムの中の少女」はホラーっぽいスタートを切ります。映画研究会の部室で偶然見つけた古いフィルムを好奇心にかられて映しだすとラスト近くに、ふしぎな少女が映っていた。こちらに背中をむけた制服姿の少女。もういちど見返すと、さきほどの姿勢からちょっとこちらに向きを変えていた。映しだすたびにむこうをむいていた少女の顔がこちらへ少しずつふりかってくるのだった。けっこう読むとこわいのですが、これがやがてせつない、無惨に断ち切られてしまったが、とても率直な愛情の物語へと変化していきます。ここでも「手を握る泥棒の物語」とおなじように、こうなるんじゃないかなと予想したオチをちょっとずらすテクニックがつかわれています。

「失はれた物語」は事故で外界との接触が右腕だけ皮膚感覚とちょっと指さきがうごかせるだけになってしまった男の愛情ゆえにとてもせつないストーリー。ピアノのアイデアがとてもすばらしいです。

"さみしさの周波数"
乙一
480円
角川スニーカー文庫
Amazonアソシエイト