2005年12月31日

血まみれの月

bloodonthemoon.jpgハイスクールのとき詩を愛し、そして、詩を愛していたカリスマ的女生徒を崇拝していた男子生徒は、不良生徒に屈辱的暴行をうけ、心に傷を負い、大人になって殺人鬼になった。彼の殺人はこれまですべて未解決になっていたが、ひとりの刑事によってやがてその存在がかぎつけられる。刑事の名は、ロイド・ホプキンズ。ロサンゼルス市警強盗殺人課の部長刑事で成績は抜群だったが、エキセントリックな言動が目立ち、偏執的に事件を追うくせがあった。彼もまた幼少時に心に傷を負っていたのだった。

エルロイが描くトラウマを負った男は、一方はモンスターであり、もう片方には致命的な異常におちいるほどであってもなお正義感や、光を求めることをやまない魂をもっていて、この人間の描き方がわたしには新鮮で、エルロイの小説に惹きつけられる理由のひとつです。

この作品は、ロイド・ホプキンズが活躍する3つの小説のひとつめです。
ストーリーの構造は後半になってシンプルになりますが、最後の対決にむかっての盛りあがりは読みごたえあります。

"血まみれの月"
ジェイムズ・エルロイ
扶桑社ミステリー
720円
Amazonアソシエイト

2005年12月17日

パリ左岸のピアノ工房

4105900277.09._OU09_PE0_SCMZZZZZZZ_.jpgパリに住むことになった著者は子供を幼稚園に送り迎えする道すじに一軒のちょっとふしぎなたたずまいの店をみつけていた。ウインドウには"デフォルジュ・ピアノ—工具と部品"とあり、ウインドウのなかには赤いフェルトのしかれた棚があって工具と部品が無造作に置かれている。ときどき小型トラックでピアノが運び込まれているのをみる。著者は少年のころピアノを習っていて、いまやっとひとところに落ちついた生活ができたこともあって、ピアノの購入を考えるようになっていた。思いきって店にはいってみると年配のがっしりした体格の男がでてきた。商人的な笑みをうかべてはいるもののていよく追いかえされてしまった。どうやら自分がよそ者のアメリカ人だかららしい。

童話や幻想文学にでてくる"魔法のお店"のような雰囲気であらわれるピアノショップ。著者はなんども店に通い、たまたま主人ではなく若い方の職人と出会い、もう一悶着ありますが、ようやく店の奥に通されるようになります。ちょっとしたホールのような部屋には解体された何十台ものピアノが所狭しとならべられていました。そこでは古いピアノが修理され売られていたのでした。

そして念願のピアノを手に入れるまでのエピソード、手に入れてからのエピソード、またピアノを習いたいけれど子供のころみたいなレッスンは勘弁してほしいしどうしようと、ピアノにまつわるお話がたくさんつまっています。

ピアノをならっていたひとはまたピアノがひきたくなるそうです。自分は、ふたたび読みかえした今回も、ピアノ職人になりたくなりました。

"パリ左岸のピアノ工房"
T.E.カーハート
新潮社
2100円
Amazonアソシエイト

2005年12月13日

独特老人

4480818170.09._OU09_PE0_SCMZZZZZZZ_.jpgオンリーワンにしてナンバーワン。自由に好きに生き、特別な光を持ってきた独特なひとたちへのインタビュー周。彼らがみつけた世界の秘密が語られます。独特な人たちはもったいぶって隠したりはしません。これはおもしろいぜ、と進んで話をしてくれます。

インタビュアーは名手・後藤繁雄。後藤さんがこの時期に出した複数の本で語られることになりますが、後藤さんは、幼いころから"どもり(発音が不自由な人・状態)"があって、うまくしゃべれないせいで、ひとが苦手で怖かったそうです。その彼がどうしてインタビューの名手とよばれるようになったのか、その秘密も、鶴見俊輔という座談の名手との対話の中であきらかになります。

登場するのは、森敦埴谷雄高伊福部昭升田幸三永田耕衣流政之山田風太郎梯明秀淀川長治大野一雄杉浦明平下村寅太郎杉浦茂須田刻太安東次男亀倉雄策細川護貞水木しげる久野収芹沢光治良植田正治堀田善衛多田侑史宮川一夫中村真一郎沼正三吉本隆明鶴見俊輔の28人。

年齢を問わず、すべての新人さんにおすすめの本です。

"独特老人"
後藤繁雄 編・著
筑摩書房
2940円
Amazonアソシエイト