2006年5月29日

ブレードランナーの未来世紀

Amazon.co.jp:〈映画の見方〉がわかる本80年代アメリカ映画カルトムービー篇 ブレードランナーの未来世紀映画秘宝コレクション: 本 まえに紹介した「映画の見方がわかる本」の続編にあたります。今回は、はまった人が多いカルトムービーが続出した80年代のアメリカ映画を、制作者側の実情を通して解説してくれます。

 とりあげられるのは「ビデオドローム」「グレムリン」「ターミネーター」「未来世紀ブラジル」「プラトーン」「ブルーベルベット」「ロボコップ」「ブレードランナー」。80年代のハリウッドは、築きあげてきた映画作家の時代が終わり、ふたたびお気楽映画の時代が舞い戻ってきました。これらの映画はどれもハリウッドの中心から締めだされた映画作家たちの作品です。
 これらの映画が共通してもつルーツは40年代の「素晴らしき哉、人生!」だそうです。アメリカではクリスマス時期になるとかならずテレビで放送される映画で、田舎町でローン会社を営む主人公ジョージは貧しい人々のために低金利のローンを組んだり、安い住宅地の開発などをして、立場の弱いひとを助けています。それをおもしろく思わないのは大地主のポッターです。高い金利で金を貸し、家賃をどんどん上げてもうけを増やしたいので、ジョージがじゃまでしょうがありません。ポッターはジョージの事業の妨害をくりかえし、ついにはジョージを破産に追い込みます。ジョージは悲観して「僕なんか生まれてこなければよかったんだ」と自殺しようとするのですが、そこに見習いの天使が現れ、「ジョージが生まれてこなかった世界」を彼に見せます。街はポッターが支配し、酒場やキャバレー、ストリップが建ちならび、ギャングが幅をきかせ、町のひとびとはすさんだ生活をしています。親友や妻の不幸なすがたをみて「生まれてこなったほうがよかったなんて二度といいません!」と叫ぶと、ジョージは元の町にもどっていて、家には彼の世話になっていたひとたちがお金を持ちよって集まっていました。そのお金で負債をすべて返すことができました。みんなで幸せに歌をうたいました。めでたしめでたし。......と思われている映画なのですが、じつは本当の意味においては、映画をみているひとたちの実生活においては、ジョージがみた彼のいない世界のほうが現実なのでした。ハッピーエンドは実際にはなかった甘い夢なのです。

 このなかの「ロボコップ」は意外でした。いままではふつうのSF娯楽作品だと思っていたんですが、この映画の監督ポール・ヴァーホーヴェンはもともとはオランダで映画を撮っていたんですが、それがセックスと暴力、反モラルでスキャンダラスなテーマのものばかり。そういう監督が「ロボコップ」をつくったのですから、これまでとはちがう意味がみえてきそうじゃないですか。
 しかもこの監督は映画制作時に「キリスト学会」に出席していたそうです。この学会は考古学的見地から実在した人間としてのイエスを明らかにしようというものです。反モラルな作品をつくるひとに共通するのは、きれいごとだけじゃない、汚いこともするのが人間だ、ありのままの人間をみようとすることです。たしかに「ロボコップ」にはそういう面がありましたよね。

"〈映画の見方〉がわかる本 80年代アメリカ映画カルトムービー篇 ブレードランナーの未来世紀 映画秘宝コレクション"
町山智浩
洋泉社
1680円
Amazonアソシエイト

2006年5月23日

大日本天狗党絵詞 1

Amazon.co.jp:大日本天狗党絵詞(エコトバ) 1 (1)アフタヌーンKC: 本 現代の天狗は街角でひっそりと暮らし、ゴミをあさって食事にありつくか、コンビニのバイトをして期限切れのお弁当にありつくか、みじめなものでした。主人公のシノブは小学校のときに、いま師匠と呼ぶメガネの中年男性(アニメのうる星やつらにでてくるメガネが大人になったような)についていった成り立ての(15年)の天狗。ある日、自分の弟と、師匠が身代わりに置いていった"どろ人形"の自分に会ってしまう。

 絵の特徴は、筆だけで書いたような古い昭和のカルトマンガ風の絵柄と、大胆なアングルを連続で使用しての大きなうごきです。大仕掛けで場面が一気に展開していく舞台のようです。

 会話にみられる特徴は、したいこともなく漠然と生きているシノブの、なにかものがつかめないでいて、それが葛藤になり憂鬱になる青年期っぽいぼんやりした曲線のセリフと、断言型の青少年の主張っぽい師匠の直線のセリフが交錯します。
 
 ストーリーは、やがて、親のいないシノブの弟と"どろ人形"のしのぶを援助している"おじ"が登場。この"おじ"があぶないことにたいそう"しのぶ"を気に入っていて、さらに天狗に特別な力を発揮する"眼"を持っていることがわかります。この"おじ"と現代の天狗たちがともに、伝説上の大天狗"Z氏"をめぐって攻防を展開していきます。

 幻想文学の空気とおなじものがあって好きなマンガです。

"大日本天狗党絵詞(エコトバ) 1"
黒田硫黄
講談社アフタヌーンKC
530円
Amazonアソシエイト

2006年5月21日

狂乱家族日記 弐さつめ

Amazon.co.jp:狂乱家族日記弐さつめファミ通文庫: 本 伝説的な怪物"閻禍"のDNAを宿しているかもしれない者たちが家族となって生活する「なごやか家族作戦」は本日も進行中。
 今回は、新婚旅行というものがあることをしったネコミミ少女(粗暴)凶華が、家族そろっての新婚旅行を強行します。家族そろってといえば、サザエさん一家なら、ワカメちゃんの新婚旅行に全員ついて行くんじゃないかと思うんですよね。あれも狂乱家族なんじゃないかな。さて、この旅行も平穏にはいかず、飛行機は凶華のハイジャックごっこによって海に墜落、近くの島へとたどり着きます。ここでなにか異様な者たち(サザエさん一家ではない)に狙われることになります。
 今回は、ロボットじゃなくて人工生物の雹霞(うんか)の過去が語られます。

"狂乱家族日記 弐さつめ"
日日日
エンターブレイン(ファミ通文庫)
609円
Amazonアソシエイト

2006年5月17日

セクシーボイスアンドロボ 2

Amazon.co.jp:セクシーボイスアンドロボ 2 (2)BIC COMICS IKKI: 本 ひとに興味がありテレクラのサクラのバイトをしている中学生の女の子ニコは、街の顔役の老人から探偵のような仕事を依頼されるようになった——セクシーボイスアンドロボの2巻目。でも2巻目でずっと止まっちゃってます。

 たすけだそうとしたひとをたすけきれず、そのひとが始末されてしまう話が中心になっています。その死によって、裏の世界にたずさわっていることをあらためて実感し、世界をリセットしたりセーブしたところからやりなおせるぐらいの神さま級の超越的な力でもないかぎり、結末から逃れられず、手をだしたらもうそのひとの死に関係してしまう(原因のひとつになってしまう)部分にかかわっていることを痛感します。

 1話だけのストーリーでは、本のさいしょに入っている、青空理髪店(美容院)のお兄さんがでてくるお話が好きです。スクーターを椅子にして、さすがにミラーをお店のような鏡にはつかえないらしく、木の枝から鏡をつっている。ニコがこのお兄さんに恋心をいだいているんですね。常連のお客さんに「つきあってるの?」ってたしかめているところがかわいらしかった。
 あと、べつの話で気に入っているのはのは、年配の女性の話し相手をしにいくものがあるのですが、話し始めてちょっとしたところでニコがおばあさんに「わざと老人ぶっていません?」と訊く場面。外連味(けれんみ)あるセリフが、うまくアクセントになっています。

"セクシーボイスアンドロボ 2"
黒田硫黄
980円
Amazonアソシエイト

2006年5月14日

映画の見方がわかる本

Amazon.co.jp:映画の見方がわかる本—『2001年宇宙の旅』から『未知との遭遇』まで映画秘宝COLLECTION: 本 監督の意図、時代背景など、制作者の視点に立って映画を読み解いています。
 たしかに観る側が自由に観ていいものですが、町山さんはしかし個人的な思いこみや誤読からくる意味のない解説や評論を注意しています。個人的な感想ならいざしらず、そういったものが権威をもったりするのが世の常です。しかも、えてして難解なものになりがち。でも、いちいち制作者側の資料をさがしてまで映画を理解しようとすることなんてめんどくさくってやってられませんよね。そこで登場するのが町山さん、それは「映画に関する文章でメシを食うもの者の仕事です。試写室で観た映画の感想文を書いているだけじゃバチが当たります」。

 とりあげられる映画は「2001年宇宙の旅」「俺たちに明日はない」「卒業」「イージー・ライダー」「猿の惑星」「フレンチ・コネクション」「ダーティハリー」「時計仕掛けのオレンジ」「地獄の黙示録」「タクシードライバー」「ロッキー」「未知との遭遇」です。 

 難解といわれる「2001年宇宙の旅」が、もとは非常にシンプルにつくられていたのがまず意外なところ。冒頭に科学者や宗教家による10分ほどの話がありそれが映画の解説になっていて、ああ、これはさっきいっていたことだなとわかるようになっていて、また随所にナレーションがほどこされていたそうです。それを最後にばっさりと切り捨てたのは、"マジック"のため。モナリザがなぜ微笑んでいるのかをダヴィンチが書き添えていたら、あの作品はこんなに褒めたたえられていただろうか?とキューブリックは説明したそうです。

 また、個々の映画だけではなく、ここ半世紀のハリウッドの歴史もわかるようになっています。60年代当時ハリウッド映画は保守的で安心して楽しめる(楽しくないけどね)作品しかありませんでした。しかし時代はベトナム戦争、黒人デモを警察が暴力的に鎮圧、マリファナの流行。ハリウッドは現実に眼をそむけていたために凋落していきます。かわって、若手の素人同然の映画が観客の人気に支えられて台頭。世代交代を余儀なくされます。資本主義、キリスト教、戦争、人種差別、家族、親、大人にNOを突きつけたカウンターカルチャーの流れを受けたニューシネマの時代です。勧善懲悪めでたしめでたしのいつも通りの映画は終わり、アウトローや落ちこぼれが主人公になり、勝てるはずのないものに立ちむかっていくようになります。わかりやすい、あらかじめ答えがわかっているような映画ではなくなっていきます。答えをあたえてくれるものではなくなるのです。あれはいったいほんとうにそうなのかといっしょに確かめに連れまわします。どちらを選ぶ? あなたならどうする? と問いかけてきます。映画はここではじめて「作品」と呼ばれるものになりました。
 
 とてもわかりやすく書かれた、おもしろい映画本でした。

"映画の見方がわかる本—『2001年宇宙の旅』から『未知との遭遇』まで映画秘宝COLLECTION"
町山智浩
洋泉社
1680円
Amazonアソシエイト

2006年5月10日

セクシーボイスアンドロボ 1

Amazon.co.jp:セクシーボイスアンドロボ1BIC COMICS IKKI: 本 中学生の女の子ニコはテレクラのサクラのバイトをしている。男を呼びだして喫茶店から待ちぼうけをくらっている男のようすを観察しているところを、近くの席にいた老人に疑問に思われる。ニコは人間観察が趣味なのだといい、将来、スパイか占い師になりたいと答えた。老人は若いころからずっと街の顔役でいまでもたくさんの相談事をもちこまれており、そのいくつかをニコに仕事として依頼するようになる。

 探偵もののストーリー展開をします。話の組み立てがとにかくうまく、ニコがこんな探偵みたいなことをするようになるところからちゃんと組み立てます。いまだとふつう最初から少女探偵だったりするじゃないですか。うむをいわさず。古い昭和の、探偵とか悪漢が登場するような映画のテイストを好み、その味つけがここにあるようでない幻想的な風景をつくりあげます。とりあげる題材が現代的なので、ノスタルジックなものとはまたちょっとちがっています。

"セクシーボイスアンドロボ 1"
黒田硫黄
小学館
980円
Amazonアソシエイト

2006年5月 7日

狂乱家族日記 壱さつめ

Amazon.co.jp:狂乱家族日記壱さつめファミ通文庫: 本 「狂乱家族日記壱さつめ」題名をみて思ったのは「さつめ」ってなんだろう、表紙の女の子の名まえかなー、でした。そう思っているうちに「狂乱家族日記弐さつめ」「 狂乱家族日記参さつめ」「狂乱家族日記四さつめ」と発売されていきました。そのたびに「さつめ」ってなんだろうと思いつづけていたのですが、ついに、やっと、「さつめ」の意味がわかったのでした。「冊目」。「壱冊目」「弐冊目」「参冊目」「四冊目」だったのです。わー、やっとわかったー。その日「狂乱家族日記壱さつめ」を買いました。

 さてこの物語は、閻禍(えんか)とよばれる神か悪魔か邪悪の化身がひとの手によってようやく滅ぼされようとするそのときに未来にむけてのこした子供ではないかと思われる者たちがひとつに集められ家族となって生活するようすを描いています。
 かれらは、ロボット?、おかま、ネコ耳少女と外見もそれぞれなら生まれ育ちもそれぞれ、でもやっぱり世界に深い恨みを持つ閻禍の血をひいているのかもしれないものたち、そんなにみんな幸せではありませんでした。荒唐無稽なドタバタストーリーであるにもかかわらず、ぎしぎしとしたほんとうに深い悲しみを描いているところがすごいですね。

"狂乱家族日記 壱さつめ"
日日日
エンターブレイン(ファミ通文庫)
672円
Amazonアソシエイト

2006年5月 5日

日本古典文学幻想コレクション1 奇談

Amazon.co.jp:奇談日本古典文学幻想コレクション: 本 日本の古典の中から、実際にそれがあったかはともかく、こんなことがありましたよと語られている不思議なできこと、怪しいできごとが収められています。この奇談、須永さんのあとがきによれば、中国の文芸用語でいうところの「志怪」に近く、これより虚構の色合いが濃くなると「伝奇」となるそうです。

 漢文に仮名をおぎなって読みやすくするのを書き下しといいますが、須永さんの訳も、その書き下しに近いやり方で、原文を現代語でおぎなう形をとっています。また、もともとが仏教説話なので説教臭い部分は大幅に省いて、物語中心の訳にしています。

 今昔物語集の一角仙人の話を訳の例にあげます。原文は、京都大学電子図書館のものです。

一角仙人、被負女人、従山来王城語第四

其ノ時ニ、諸ノ龍王、喜ビヲ成シテ水瓶ヲ[クヱ]破テ空ニ昇ヌ。昇ヤ遅キト虚空陰リ塞ガリテ雷電霹靂シテ大雨降ヌ。女、立隠ルベキ方無ケレドモ還ルベキ様無ケレバ、怖シ乍ラ日来ヲ経ル程ニ、聖人、此ノ女ニ心深ク染ニケリ。

須永朝彦訳(p.27-28)
その時、諸々もろもろの竜王達は喜び勇んで水瓶を蹴破り、空に昇った。忽ちにして虚空は暗雲にとざされ、稲妻が閃き雷鳴が轟く中、豪雨が降り注いだ。女は、目的は達したものの、立ち隠れる所もなく、また還るべき手だてもないので、怖いと思いつつも仙人のもととどまらざるを得なかった。仙人は、この女に心から惚れてしまった。

 須永さんの文章はリズムがとてもよくって漢字が多くても読みやすいんですよね。この文章を体得できたらなどと大それたことを考えたりするんだけど、そううまくはいきません。

"日本古典文学幻想コレクション1 奇談"
須永朝彦 編訳
国書刊行会
2854円
Amazonアソシエイト

ユダの福音書を追え

Amazon.co.jp:ユダの福音書を追え: 本 ユダの福音書の内容自体にはほとんどふれていないので注意しましょう。内容については6月に発売される「原典 ユダの福音書」を買いましょう。それでもちょっとでも内容を知りたい場合は、この本の後ろのほうにある章でふれられているので、そこだけを立ち読みするといいでしょう。

 本書は、ユダの福音書を含むパピルス製の写本の発見から復元まで紆余曲折を描いたものです。復元についても、あっさりとした記述で終わっており、1970年に発見されてから内容が発表されるいままでこれだけ時間がかかったのはキリスト教教会がじゃましたわけじゃないんだよというのを知らせたい意図があるのではないかとも思われます。

 古美術商についてのくわしく書いてあるのでファンタジーや冒険ものの創作をするひとにはいいヒントになると思います。

 ユダの福音書については後日「「原典 ユダの福音書」」を読んでから書きますね。

"ユダの福音書を追え"
ハーバート・クロスニー
日経ナショナル ジオグラフィック社
1995円
Amazonアソシエイト

2006年5月 2日

毎日かあさん3 背脂編

Amazon.co.jp:毎日かあさん3 背脂編: 本 毎日かあさん第3巻発売。
 どちらかといえば、というより、まちがいなく、バカ組の男の子だった自分。引っ込み思案だったので、バカ炸裂の度合いが低かったんだけれども、してればよかったといまでは思います。

 なんもしていないのに白い目でみられるコンビニ前ですわっている中高生の男子。おっきくなっちゃうと家にはいられないし、かといってお金はないし、女の子はおしゃれになって口もきいてもらえない。少ないおこづかいでなんか食べるんだったらみんなで食べっこしたい。食べるときは座りたいわけじゃないと、かれらの気持ちがわかる西原センセー。
 やっぱ、信用しちゃうわけだ。

"毎日かあさん3 背脂編"
西原理恵子
毎日新聞社
880円
Amazonアソシエイト