2006年7月26日

狂乱家族日記 四さつめ

Amazon.co.jp: 狂乱家族日記四さつめ: 本: 日日日,x6suke 今回は、最強の生物兵器として開発された雹霞(ひょうか)のストーリー(現在と過去)を軸に、優歌の実のお姉さんで後から狂乱家族に加わった千花(ちか)の現在と、シリーズ全体の起承転結の「転」となる展開をも含んでいます。

 雹霞は、ぱちんこ屋という名まえのパン屋さんの女の子が気になりだします。家族のみんなは、それは恋だといって勝手にさわぎだしますが、雹霞はその女の子に近づくと軽い頭痛を感じます。なにか忘れている過去と関係があるようです。それは冒頭の雹霞の日記でわかります。このまま最悪の日がくるのをただ待つだけなのでしょうか?(そんなの凶華さんがゆるさないはずだ!)

 雹霞と関係する、ぱちんこ屋の娘さんとよばれるこの女の子も、いなくなったりして、バラバラになった家族にたいして深い悲しみを抱いています。ふだんは関西弁をのんびりと話す、ちょっと照れ屋でおとぼけで、いいキャラクターの女の子なんだけど、暗い影を隠して毎日がんばって生きています。その悲しみの描写があいかわらずうまくて心にしみるのです。

 ドタバタっぷりもあいかわらず。冗談に軽快にながれていく文章はさらに強力に。キャラは立っており、いずれも自己主張が強く、油断なりません。

 それから、この街はなにか変だ、と多くの登場人物が気づき、見えないところで事件が起こっているようなのですがずっと表にはでてきません。これがすごく不安で、模型の街にひとりぽつんと置かれてしまった気分になりました。うー、はやく抜けだしたいー、と先を読み進めていました。こういう引っ張りもあるんですね。昔のウルトラQがこんな感じを持っていたんでしょうか。

"狂乱家族日記 四さつめ"
日日日
エンターブレイン(ファミ通文庫)
714円
Amazonアソシエイト

2006年7月22日

囚われのチベットの少女

Amazon.co.jp: 囚われのチベットの少女: 本: フィリップ ブルサール,ダニエル ラン,Philippe Broussard,Danielle Laeng,今枝 由郎 チベット独立を叫んだ広場での数分で投獄され、過酷な拷問をうけ、少女は誰もが愛した笑顔を失ってしまった。しかし、彼女には不屈の魂があった。

 中国に侵略されたチベットのある女性の物語です。彼女はまだ投獄されています。瀕死の重傷を負わされる拷問をうけてもまったく変わらない彼女の心に涙があふれてきます。

 中国は、日本の侵略を非難しているのに、自分たちは平気で侵略をおこない、ひとびとを処刑し、弾圧します。日本を非難する言葉は「ウソ」なのでしょうか。

"囚われのチベットの少女"
フィリップ・ブルサール、ダニエル・ラン
トランスビュー
2100円
Amazonアソシエイト

2006年7月21日

ドン・デリーロ「コズモポリス」

Amazon.co.jp: コズモポリス: 本: ドン・デリーロ,上岡 伸雄,Don Delillo 退屈。刈りこんで短くするか、映画にでもすれば、おもしろくなる内容だとは思います。

 主人公は、投資会社の社長で、コンピュータの分析した映像をながめています。映像をなにかの哲学のように考えたりもしています。胴を長くしたストレッチリムジンに乗り、ときどき乗り込んできてる、あるいはいつのまにか乗っている部下と話をします。女とセックスをします。接するものが象徴的なものばかりなので、セックスとか、危険だとかに心をうばわれます。事件を映す映像からは眼をはなせません。あまり楽しんでいるようにもみえないけれど。まさに現代人ではあります。今日は床屋にいくつもりで家をでました。安くなるとみこんだ日本円は上昇中、下がらないと会社はおしまいです。

 主人公とおなじように退屈を感じ、主人公とおなじように、なぜだか不思議な力でちょっと先のことを知りその時を待ちます。
 主人公が退屈しているのだから、読んでいて退屈を感じるのはしょうがないのかもしれません。

2006年7月19日

後藤繁雄「くろい読書の手帖」

Amazon.co.jp: くろい読書の手帖: 本: 後藤 繁雄 後藤さんの文章が好きです。がっちりとしてはいないところもあるけれど、ぼやかさない、ごまかさない、煙に巻かない、感覚にとても忠実なのだと思います。だから、とても澄んだ印象を受けます。でも、それはかならずしもピュアであるとか健全であるわけではなくて、ゆがんでいたり、傷であったりもします。

 この本は、2001年から2004年までの雑誌連載を中心にした書評集です。坂本龍一、浅田彰それぞれとの短い対談も載せられています。

 とくに印象にのこったのは、対談のなかにでてくる、草間彌生さんの小説についての部分(p.300)、「病は死よりも強い」。自分は直るとは思っていない、むしろ病によって生きるのだと思っている。というところ。たしかに病気をもっているひとの健全な部分はひ弱でありきたりで、たぶんそれだけになってしまうと生きてはいられないように見えます。病気の部分から強さや才能や魅力が生まれてきています。

 紹介されている本のリストはアマゾンにもbk1にもなかったので書いてみます。

「老人のための残酷童話」倉橋由美子
「メイプルソープ」パトリシア・モリズロー
「ハバナへの旅」「夜になるまえに」レイナルド・アレナス
「小林秀雄全集 第十二巻 考えるヒント」小林秀雄
「火山に恋して」スーザン・ソンダグ
「京都発見」梅原猛
「ホワイト・ティース」ゼイディー・スミス
「コンセプチュアル・アート」トニー・ゴドフリー
「素粒子」ミシェル・ウエルベック
「評伝プルースト」ジャン=イヴ・タディエ
「シマノホホエミ」長野陽一
「キッチン・コンフィデンシャル」アンソニー・ボーデイン
「ガラテイア2.2」リチャード・パワーズ
「コカイン・ナイト」J・G・バラード
「中上健次エッセイ撰集 青春・ボーダー篇 文学・芸能篇」中上健次
「マストロヤンニ自伝」マルチェロ・マストロヤンニ
「南の光のなかで」山尾三省
「だれでもない庭」ミヒャエル・エンデ
「沖縄ソウル」石川真生
「アンダーワールド」ドン・デリーロ
「海辺のカフカ」村上春樹
「タルコフスキー映画」馬場宏信
「暮らしの手帖300号記念特別号」
「透明な対象」ウラジーミル・ナバコフ
「ハゴロモ」よしもとばなな
「ブックストア」リン・ティルマン
「マルセル・デュシャン」カルヴィン・トムキンズ
「魚が見た夢」柳美里
「ペイ・デイ!!!」山田詠美
「星野道夫著作集 1・2」「魔法のことば」星野道夫
「エッセイ」柳宗理
「他社の苦痛へのまなざし」スーザン・ソンダグ
「アウステルリッツ」ヴィンフリート・ゲオルク・ゼーバルト
「さまよえる影」パスカル・キニャール
「ポルノ」アーヴィン・ウェルシュ
「シンセミア」阿部和重
「愛しあう」ジャン=フィリップ・トゥーサン
「新たな生のほうへ」ロラン・バルト
「ロンリー・ハーツ・キラー」星野智幸

 アマゾンのカートに放りこんじゃったのは「ブックストア」と「キッチン・コンフィデンシャル」。

"くろい読書の手帖"
後藤繁雄
アートビートパブリッシャーズ
2310円
Amazonアソシエイト

2006年7月15日

狂乱家族日記 参さつめ

Amazon.co.jp: 狂乱家族日記 参さつめ: 本: 日日日,x6suke 今回のストーリーは、狂乱家族の"お母さん"超絶戦闘娘しかもネコ耳の凶華さんの過去と、"お父さん"の凰火の過去にふれています。"お母さん"がメインで、"お父さん"は添え物のようなもので"お父さん"の過去の女"死神三番"と"お母さん"凶華がバトルを繰りひろげます。

 作者の日日日さんは、登場人物が心に負った傷の語り方がうまくて、"死神三番"の心のうちのざらついた部分や何度も口を開ける傷をリアルに感じさせてくれます。

"狂乱家族日記 参さつめ"
日日日
エンターブレイン(ファミ通文庫)
651円
Amazonアソシエイト

2006年7月 5日

日本古典文学幻想コレクション2 伝綺

Amazon.co.jp:伝綺日本古典文学幻想コレクション (2): 本 神話や物語、芸能の台本などの古典から、伝綺といわれるオカルトや狐が化けたりと虚構の色が濃い作品を選びだして編んだ一冊。原文の味わいを残して現代語訳されています。

 昔の話は、なにかを暗にさしているためなのかわかりませんが、かなり変わった展開のお話が多いですね。神さまの嫁になった姫が夫が昼間は姿を見せないのを不審がってのぞきにいったら姿をみられた夫はすねて遠くにいっちゃって、姫さんは見なきゃよかったとがっくり尻餅をつくとそこに箸が立っていたので刺さって死んじゃいました、とか。コントの結末みたいです。

 印象にのこった作品を簡単に紹介します。
 きれいな姫さまに恋をした狐が、男に化けて近よって、うまくいっちゃったらそれは姫さんの禍だから、娘に化けてお側にいようと決心、願いはかなうがやはり心は平安にはならないという恋心がつづられる「玉水物語」。
 そういう生き物がいるという話だけが伝わって作られたのであろう「犀」。あのふつうサイというあのサイです。でも、水に住む幻の生き物のように描かれています。
 元寇を題材にしているのですが、時代は古代に設定され、海を渡り、逆襲して蒙古軍を倒した英雄、百合大臣だったが帰国をまえにして裏切りにあい孤島に置き去りにされる。なんとか日本にもどり、復讐を果たすストーリー「百合若大臣」。
 御百度の修行に励む行者のもとに梛(なぎ)の精霊があらわれ、自分は柳とからんで夫婦の契りをかわしていたが、修行場所の穢れ(けがれ)としておまえ(行者)にバラバラにされ、むなしくすごしていたが、毎日聴かされる経文の功力により因果を逃れ、このたび、ひととして転生することとなった、しかし、柳はまだ恨みをもったままだから注意してくれ、といって飛びさっていった。行者は、こんな不思議なことが起きて、精霊と言葉をかわせたりしたのは、俺に力があるからだ、と、にやにや。そこに唐突に異形の僧があらわれ行者の慢心を注意したが、行者はぜんぜん気にもしない。怒った異形の僧は行者をつかんで谷底に投げすてた。行者は柳の枝に突き刺さり息絶える。この行者の生まれ変わり、梛(なぎ)の精霊の生まれ変わり、そして柳の精霊がまたべつの姿で一悶着という因果のストーリー「祇園女御九重錦」。
 惟高親王と惟仁親王の異母兄弟の皇子の天皇の座をめぐっての争いが描かれる「惟高親王魔術冠」。ふたりを担ぎあげる取り巻きの魔術合戦と、登場人物それぞれの過去がどんどん明かされていって入り組みながらの因縁めいた展開と、かなりのオカルトストーリーです。
 中国、インド、日本と渡りゆき、美女にのりうつって権力者をたらしこみ残虐な楽しみにふけった九尾の狐のストーリー「玉藻前三国伝記」が最後におさめられています。

"日本古典文学幻想コレクション2 伝綺"
須永朝彦 編訳
国書刊行会
2854円
Amazonアソシエイト

2006年7月 3日

黒田硫黄「黒船」

Amazon.co.jp:黒船Cue comics: 本 ふたつめの短篇集です。まえに紹介した「大王」よりも、こなれていて読みやすいと思います。

 「わたしのせんせい」
 勝ち気な女生徒となんだかやる気のない先生の恋愛の話だとおもっていたら、あれ? 頭上にUFOが...。背景に方政治のどっぷり利権づけぷりが描かれます。弱く、かつ、たくましい女の子が魅力的。
 「鋼鉄クラーケン」
 クラーケンとはもともと北欧の神話にでてくる海の巨大生物の総称で、巨大なタコや巨大なイカの姿で描かれることが多いです。南海の孤島にうちあげられていた大貝の腹から助けだされた若い男は、その大貝を捜しているというクラーケンの女と出会い、いっしょにさがしてやることを条件に彼女を戦力として利用します。このクラーケンと大貝が天界から落ちてきた恋人同士で、というのが、おとぎ話的、古典文学的でなかなかおもしろい設定になっています。全体は、帆船がでてくる海洋もの。女海賊もでてきます。
 「課外授業」
 死んじゃった女生徒と、彼女を唯一見られる女教師のドタバタしながらも、ちょっとせつないストーリー。
 「肉じゃがやめろ!」
 料理レシピマンガ。ラストにやっとタイトルの説明がありますが、だいたいわかりますよね。
 「象の股旅」
 旦那に死なれちゃった女と象使いの師匠である旦那の父親とで行く宛もなくなり、日本へ来ることになる。江戸時代にきた象のお話です。運命というか試練というか結末がせつないのも黒田漫画の特徴なのかな。

 そのほか、すごく短い、女の子ふたりがでてくるシリーズが収められています。のんびりと味のある終わり方をしています。

 なお、表紙に関係するマンガはありません。

"黒船"
黒田硫黄
イースト・プレス
1049円
Amazonアソシエイト