2006年9月24日

蟲と眼球とテディベア

Amazon.co.jp: 蟲と眼球とテディベア: 本: 日日日 初期の作品で、かつ、シリーズ化するために新人賞作品を改稿したものなので、この著者の他の作品と比べるとちょっと質が落ちます。ストーリー全体の個々の要素はおもしろいけれど、構成が荒っぽいです。現在は組み立てが繊細になっています。といってもデビューからまだ1年ちょいなんですね。かなりの力量です。

 ストーリーは、高校教師と女生徒が恋をしています。そこに強烈な暗雲がただよってきます。街角の占い師の少年が女生徒の死を告げたのです。スプーンで眼球をえぐられて脳をぐちゃぐちゃにされて殺されてしまうと。そして、ひとりの謎の少女が現れます。右手に銀色のスプーンが握られています。彼女は眼球抉子(がんきゅうえぐりこ)と名のりました。「グリコの邪魔をするのなら、おまえの眼球えぐっちゃうぞ」

 エデンの林檎をうまくアイデアに取り込んだ展開をしていきます。この本でしっかり完結しているのでこの先どうなっていくのかたのしみです。これを書いている時点で4巻まで出ています。

"蟲と眼球とテディベア"
日日日
メディアファクトリー
609円
Amazonアソシエイト

2006年9月20日

オタク・イン・USA

Amazon.co.jp: オタク・イン・USA 愛と誤解のAnime輸入史: 本: 町山 智浩,パトリック・マシアス 海外進出をしたころのジブリの鈴木プロデューサーはよくこう訊かれたそうです、「あなた方の作っているのはジャパニメーションじゃないんですね」。ジャパニメーションといわれているものはセックスと暴力のアニメ、ポルノとしての日本製アニメでした。

 この本によると"Hentai(ヘンタイ)"という言葉は日本製のアダルトアニメをさすそうです。いまではアダルトアニメ(マンガ)全般をヘンタイと呼ぶようになりました。宮崎駿とポケモンがなかったら、日本のアニメは「ポルノ」で定着してしまっただろうといいます。

 エロが主流というのは、誤解ではなく、日本のオタク・カルチャーがきちんと理解されているように思えますが、ポルノ市場に大量投入されたのは、ロリコン(チャイルド・ポルノ)やレイプに極めて厳しいアメリカのポルノ規制の抜け道として使われたのが大きいようです。対象が実在する少女ではないため(モデルとなっている人物が傷つけられるわけではないため)、「被害者なき犯罪」であり、憲法上、起訴できないから、というのが理由。詭弁ですよね。今のところはセーフだけれども、"ヘンタイ"愛好者の性犯罪が問題化すれば一発で終わりでしょう。

 いきなりそんな話から始まってしまいましたが、この本はポルノ話で終始する内容ではありませんよ。

 日本でも地方ではアニメがあんまり放映されなくてたいへんだったりするお話をききますが、アメリカだとさらにたいへん。とくにインターネットがなかった時代には。

 やっぱり「ゴジラ」は有名なのですが、じつは日本のゴジラ映画はひとりのアメリカ人によって強烈に方向性を左右されていたなんて知っていました? 
 「ウルトラマン」も人気がでたそうなんですが、「ウルトラセブン」は盛大にこけます。なぜか10年も寝かされたうえに、放送時間が早朝5時、とどめに、セリフがすべてつまんないジョークまじりに変えられてしまっていたそうです。「ウルトラマン」熱中したアメリカ人がウルトラシリーズの最高傑作だと噂にきいていたそれをやっと観られたと思ったら、ぐだぐだのジョークてんこもり。さぞやがっかりしたことでしょう。
 こうしたアメリカ独自の改変というのはよくあるらしく、「ガッチャマン」は銀河を旅する宇宙戦士の物語になっているそうです。編集し、オリジナルの映像を継ぎ足して、R2-D2みたいなロボットが行き先の惑星を指示してガッチャマンたちはそこで宇宙の侵略者たちと戦う。すごいなーと思っていたら「マクロス」は「マクロス」と「超時空騎団サザンクロス」と「機甲創世紀モスピーダ」をくっつけて、「ロボテック」というひとつのシリーズにむりやりしてしまったんだそうです。それでもヒットしたのがすごいところです。

 かつての日本が、中国の文化をとりいれ、日本独自の文化をこしらえたように、アメリカにおいての、日本のアニメ・特撮・マンガも、ストレートな取り入れ方から、独自のものを生みだす方向へと変わってきました。この本ではとくにマンガでの影響がくわしく語られています。

 雑誌連載記事がもとになっているということで、数ページごとにひとつのテーマにしぼられており、話題が多く、間延びせず、飽きずに読んでいけます。著者が、記者や評論家ではなくて、ほんとうにアメリカ人のオタクなので、誤解がなくて、短い文章の中でもターゲットをきちんととらえているので、充実もしています。おろもしろいです。

"オタク・イン・USA 愛と誤解のAnime輸入史"
パトリック・マシアス
太田出版
1554円
Amazonアソシエイト

2006年9月15日

「自炊をしよう!—カンタン、うまいっ、安上がり」

Amazon.co.jp: 祝ひとり暮らし 自炊をしよう!—カンタン、うまいっ、安上がり: 本: 奥薗 寿子 SHIN-ICHIさんのところのブログで以前紹介されていて興味をひかれて購入した本です。

 基本の食材をそれをつかいまわせる料理、さらにはもう少し発展させた、こういうのを作ってみたいよねという料理と、レシピは2部構成。
 基本の調理器具と使い方、食材の下ごしらえの仕方と保存方も紹介されていて、これ一冊でほんと困りません。
 著者ご本人が「ズボラ料理」「ナマクラ流」を自称するだけあって、めんどくさくなくて、後始末もかんたんなアイデアがちりばめられています。
 ポイントの絞り方がいいんですよ。ただのめんどくさがり屋じゃなくて頭がいいんですね。
 いままでてきとうにやってきた調理方法とおなじだけの手間なのに、ちょっとの工夫で、段違いにおいしい料理がつくれます。

 プレゼント用にもいいかもしれません。女の子や、一人暮らしの男にも。料理のお手伝いをはじめた子どもにも。

 料理本というのはサイズが大きいのが多いけど、これは新書サイズなんで置いておくのにじゃまにならないのもいいところです。

"自炊をしよう!—カンタン、うまいっ、安上がり"
奥薗壽子
主婦の友社
1050円
Amazonアソシエイト

2006年9月13日

アンダカの怪造学III デンジャラス・アイ

Amazon.co.jp: アンダカの怪造学(3) デンジャラス・アイ: 本: 日日日 3巻、めちゃくちゃおもしろいじゃないですかー。
 おとなしくしていたキャラたちが活動開始。主人公・伊依(いより)の寮のルームメイトでいつも布団をかぶっていて姿をみせない片津理夢(かたつりむ)がついに!(怖すぎ)。キッチーなセリフを披露するだけだった怪造学会執行部(力ずくで問題解決)の爆川嫌凪(はぜかわやなぎ)もついに出番が! 前巻のサブキャラ筆頭、戦橋舞弓(たたかいはしまいゆみ)も消えずにこの巻でも冒頭から活躍!(よかったー)。やる気をみせない天才少女(趣味は死体)魅神香美(みかみかみ)も伊依の中学時代からの親友なはずなのにあまり親友にみえないただの知り合い?みたいな感じだった愛称カービィちゃんもついに伊依に不満をぶつけケンカに。友情は深まってほんとうに親友になれるのか!? そして、あの子も登場します。
 ストーリー的には怪造生物(よびだしたモンスター)とは仲良くしたり頼ったりしてきたものの、なぜか人間の友だちとは距離を置いていた伊依の過去があきらかになり、そこからの展開がメインです。そして波及するのは、伊依は怪造生物を道具としてではなく、ともに仲良く暮らしていくのが理想ですが、しかし怪造生物にはただ人間への不信、敵対以上に、相互理解が不可能なただ、ただ、人間を楽しみとして殺すものがいて、関係することが即、たがいの不幸にしかならないものがいる事実が伊依につきつけられます。伊依の信念を揺るがすような問題です。これは一般に"平和ボケ"(話せばわかる。誰とでも仲良く。9条を守ろう。のひとたち)と呼ばれているひととおなじ問題です。こんなふうにただのエンターテイメントにだって重要な問題意識は存在しているわけですよ。大きな問題にあるようなことが、身近な、小さい、とるにたらない、くだらない物事のなかでもおなじようなつまずきになっているものです。ふしぎと。おなじ人間がやることだからなんでしょうね。余談終わり。

 けっこう今回は大展開なのに、次巻からは新展開だって。楽しみなシリーズです。

"アンダカの怪造学III デンジャラス・アイ"
日日日
角川スニーカー文庫
680円
Amazonアソシエイト

2006年9月 8日

ブックストア —ニューヨークで最も愛された書店

Amazon.co.jp: ブックストア—ニューヨークで最も愛された書店: 本: リン ティルマン,Lynne Tillman,宮家 あゆみ 読書家をよろこばせるめずらしい本をとりそろえ、作者による朗読の会をひらくという、夢のような書店ブックス・アンド・カンパニー(Books & Co.)の始まりから終わりまでの20年間を、オーナーであるジャネット・ワトソンの回想を中心に、たくさんの人びとのコメントを交えて再現しています。

 ジャネット・ワトソンはお金持ちの家(IBMの初代社長が祖父で、父がその後継者)に生まれ、その財力がなければ、この書店は一瞬で吹っ飛んでいたでしょう。なんとか経営が成り立つような見通しが立ちますが、建物を自分の物にせず賃貸契約していたため、値上がりする家賃に堪えきれず閉店となります。閉店に際しては建物の所有者である近隣の美術館とのトラブル(支援してくれる約束だった、いや約束はしてないなど)がスキャンダルとなります。ごたごたは悲しいけれど、騒ぎになってしまったんだから、しかも美術館が一方的に悪者になってしまったから、実際はこうだったということもちゃんと書くことにしたのでしょう。

 書店業界および出版業界というのはもともとさして儲からないもののようで、その当時、マンモス級の巨大書店がチェーン展開し始め、そこはディスカウント(値引き)もしているので、独立系といわれる小型書店はなかなかうまくいかない状況ではあったようです。

 たしかに、特殊で趣味のいい本を厳選してとりそろえてある書店もいいですが、やたらめったら本がたくさんある書店というのも魅力がありますよね。これは書店だけの問題ではなく、日本でもよくきく、町の商店街と大型のショッピングセンターの関係とおなじものでもあります。大型店はたくさん売れる物がどうしても中心になってしまうので、手薄になってしまう部分ができてきます。たくさんは売れないけど、少数でも確実に売れるものをあつかっていけば小型店でも生き残ってはいけます。あるいは特殊な場所としての存在を確立することでも(映画館とDVD・レンタル・テレビの関係のような)。それでも、もちろん、荒波にはもまれますが。

 しかし、この書店、ほんとうにいいですよねー。うらやましい。作者との交流ってネットでちょっとあるくらいですよね。それが書店であるというのは本当は理想なような気もします。サイン会をする書店はありますが、書店がひとつのコミュニティにまで発展するというのは、あまり想像がつきません。マンガで同人誌は即売会などでちょっとはそんな感じにもなるのかなとも思いますが実際は知らないのでどうなんでしょう。

"ブックストア—ニューヨークで最も愛された書店"
リン・ティルマン
晶文社
2625円
Amazonアソシエイト

2006年9月 7日

日本古典文学幻想コレクション3 怪談

Amazon.co.jp: 怪談: 本: 須永 朝彦 江戸時代の怪談物の短篇からの選りすぐりを、古典の香りを強くのこしたかたちで訳出したアンソロジーです。すべて原典が一般に刊行されており、古典を実際に読むきっかけになるようにもなっています。

 巻頭には「牡丹灯籠」。美しい女性があらわれ、心奪われ関係を持つが、じつは女は幽霊で命を落としかけるという日本の幽霊譚の典型なのですが、もともとは明代の中国小説の傑作がもとになっているそうです。この時代もまだオリジナルよりはパクり(翻案という)が主流です。
 さて、この「牡丹灯籠」、主人公は妻と死別して、いつまでも亡き妻に思いをかけていたはずなのですが、絶世の美女があらわれると、あらあら、すぐに魅入られてしまいます。心の隙をつかれているのか、情けないのか、微妙なところ。そういうときに優しくしてくれる女性に知らず知らず傾いてしまうということでしょうか。
 この女性の幽霊話、塚本晋也監督の映画「ヴィタール」におなじ匂いを感じました。亡くなった恋人が自分の解剖実習の献体としてあらわれ、そして彼女の夢を毎夜見るというお話で、解剖を愛の行為の延長としてとらえているのですが、シチュエーションが古典の幽霊譚を想わせます。興味ある方はぜひ映画もごらんになってください。

 それから、牡丹灯籠とおなじ「伽婢子」から「人面瘡」。傷跡やできものが人の顔のようになってきてやがて喋りだすという有名なお話です。これも中国のものが元ネタ(粉本という)だそうです。

 男女ばかりではなく、衆道趣味のお話も数多くあり、美少年に恋した男が思いを遂げられずに死亡。怨念は化け物となって少年をとり殺す。好きが高じると憎しみになるわけです。

 井原西鶴は皮肉な幽霊話を書いています。「腰抜け幽霊」と題されるお話で、結末で、今時のひとは気力に欠けるので幽霊になっても力がない、といっておられます。

 曲亭馬琴、鶴屋南北、三遊亭圓朝などにより何度も語りなおされてきた"累(かさね)"の物語。累の怪談の実録風記述の初期のものとして「新著聞集」から「累の怨霊」がおさめられていますが、これはやはりすさまじいお話ですね。ざっとしたあらすじは、累という女が醜いうえに心根も悪いために旦那に川に沈められ殺される。その怨念が旦那の後妻と子どもに祟る。偉い坊さんになんとか静めてもらうが、しばらくして再燃。おなじ坊さんに調べもらうと実はこの累(かさね)の祟りのまえに、もうひとつ陰惨な殺人があって累(かさね)の兄が子どものころに彼女が沈められた川で母親に殺されていたことがわかる、という二重の怨念にぐったりさせられる物語です。
 祟っているはずの霊の他にもうひとり霊がいるっていうのはここ最近テレビの霊能者がよくやっていましたが、この累の物語がネタなのかもしれません。

 幽霊話ではありますが、怖い話ではないので、人間の心理に興味があれば楽しめると思います。また、冒頭にあるように古典に興味があるけどむずかしくて入りづらいというひとにもおすすめです。

"日本古典文学幻想コレクション3 怪談"
須永朝彦 編訳
国書刊行会
2854円
Amazonアソシエイト