誰かがそこに行って真実を伝えなければならない。これまで知られてこなかったカンボジアの本当の姿が描かれます(映画「キリングフィールド」は偽りの物語でした)。
報道写真家になることを望み、アメリカの意図によってベトナム戦争の戦火が拡大したカンボジアに行き、取材し続けた著者の活動の記録です。
映画「キリングフィールド」がまったくの嘘だというのが意外でした。
この映画は、カンボジアの戦争を取材していたニューヨーク・タイムズの記者シドニー・シャンバーグと彼の助手をしていたカンボジア人のディス・プランの物語として描かれます。ベトナム戦争時にアメリカの支援を受けてクーデターを起こし誕生したロン・ノル政権がアメリカのベトナム戦争敗北により崩壊、ポル・ポトが指揮するカンボジアの共産勢力クメール・ルージュが支配するようになります。シャンバーグはプランといっしょに国外へ出ようと偽のパスポートを作るが失敗、取りのこされたプランは集団農場へ送られます。そこでクメール・ルージュによる虐殺を目撃します。長い苦難の生活ののちに、プランは運良く脱出、タイへ逃れます。そこで四年ぶりにシャンバーグと涙の再開を果たすという感動の作品です。このシャンバーグという記者による手記をもとにした実話として作られました。また、ラストにジョン・レノンの名曲「イマジン」がつかわれていることでも有名です。
公開当時から、事実と違うと批判され、プロデューサーのデイヴィッド・パットナムは、この映画は政治的なことが主題ではなく、シャンバーグとプロンの友情物語として見てほしいと語ったそうです(じつはその友情物語でさえ嘘なのだそうですが)。
いまはそういう批判があったことさえも忘れられて、事実として受け入れられてしまっています(たとえばWikipediaやAmazonでのカスタマーレビュー)。映画の恐ろしさです。これによってポル・ポト派の大虐殺のイメージが作られてしまいました。
ただ、ポル・ポトの政権において大量の死者をだしたのは確かなようです。政策の失敗により、大量の餓死者、病死者をだしました。ポル・ポト派の幹部も虐殺は否定していても、政策の失敗は認めています。
そのほか、カンボジアの内戦とみられていたものが、すべてベトナムとの戦いであったこと。アメリカの侵略を撃退したベトナムがこんどは隣国を侵略というのは苦笑するしかありません。現状はベトナムの傀儡国家になっています。有名なアンコール・ワットの遺跡は管理権がベトナムの企業に委譲されており、観光の利益はベトナムに落ちています。悪者とされるポル・ポト派だけが戦ってきました。だから、悪者にされてしまった部分がかなり大きいのでしょう。
そしてベトナムの南北差別。テト攻勢で南ベトナム解放戦線は事実上壊滅、北ベトナム軍にとってかわられることになりました。終戦後は、南の肥沃な農地は北の人間に分配さ、南ベトナムの人間は追いだされる形でカンボジアやタイに流入していきました。
さらに驚いたのは、ODAの資金援助は、日本にキックバックされているそうです。一部着服ってことです。ODAがそんな直接的な利権だったとはびっくりしました。
湾岸戦争のときも、イラク戦争のときも、危険地帯に入りこむ報道記者、そのために亡くなったひとたちは、バカだと、けっこう国内では批判されてきたけど、いや、やっぱり絶対にそういうひとたちが必要なんだとこの本を読んでいてあらためて思いました。
報道する側もそれを見る側も、だいたいのひとは真実をもとめているけれど、実際はそうはいっていない。そこで起こっていることを見に行ってくれるひとがいないかぎり、そうはなりえないことなんですよね。
"わたしが見たポル・ポト—キリングフィールズを駆けぬけた青春"
馬淵直城
集英社
2100円
