オールド・ミスター・フラッド
ちょいと昔のニューヨーク。フルトン魚市場のそばに住むフラッド氏は、魚介食主義を主張する老人です。もとは家屋の解体業者で、魚とはなんの関係もなかったのに、いまでは魚市場の主のようにふるまっています。たしかに海産物にはうるさい。豊富な知識と良いものを選ぶ確かな目を持っているようです。
フラッド氏とのつきあいを通してニューヨークの下町が描かれていきます。
風邪には牡蠣がいいとおすすめの店と注文の仕方、食べ方までを指南してくれるフラッド氏。"牡蠣発作"というものがあるんだと話しはじめます。大恐慌の折、無一文になったのであろう若者になさけをかけて自分のところで雇うことにした親友からきいた話だそうです。やせっぽっちでなまっちろい顔をした彼らに精をつけさせるために牡蠣を腹一杯食べさせます。すると彼らはクスリでハイにでもなったようになって、町の通りで大暴れ、警察のごやっかいになったのだそうです。牡蠣発作の逸話はほかにもあって、大事にしていた老馬が牡蠣を食べさせたとたんに雌馬を見つけるがとたんに突進していくようになってしまったり、競馬のいかさまにつかわれていた、という話まででてきます。
フラッド氏の友人のなかで、変わった趣味をもっているのは、ムーニー氏です。新聞の死亡記事をたのしみにしています。フラッド氏も、年寄りになればわかるのだ、といいます。同じ年ごろの人間の死はたしかに心を高揚させるのだそうです。ただ、我慢ならないのは、ムーニー氏が自分にもそういう目をむけはじめたことだと憤慨します。なるほど、複雑な感情です。
この本の文章の流れがまた気持ちがよくっていつまでもひたっていたい気分にさせられます。無駄なく、そつなく、なんだけれども、がりがりの骨ばかりにはしてなくて、たっぷりおいしい肉がついている感じです。
表題の短篇のシリーズと、最後に「マクソーリーの素敵な酒場」という短いお話が収められています。この「マクソーリーの素敵な酒場」が著者ミッチェルの出世作だそうです。
まあ、しかし、この「オールド・ミスター・フラッド」がじつは創作というのにはびっくりさせられました。ほかの話も読みたいなー。




