2007年1月27日

オールド・ミスター・フラッド

Amazon.co.jp: オールド・ミスター・フラッド: 本: ジョゼフ ミッチェル,常盤 新平 ちょいと昔のニューヨーク。フルトン魚市場のそばに住むフラッド氏は、魚介食主義を主張する老人です。もとは家屋の解体業者で、魚とはなんの関係もなかったのに、いまでは魚市場の主のようにふるまっています。たしかに海産物にはうるさい。豊富な知識と良いものを選ぶ確かな目を持っているようです。

 フラッド氏とのつきあいを通してニューヨークの下町が描かれていきます。
 風邪には牡蠣がいいとおすすめの店と注文の仕方、食べ方までを指南してくれるフラッド氏。"牡蠣発作"というものがあるんだと話しはじめます。大恐慌の折、無一文になったのであろう若者になさけをかけて自分のところで雇うことにした親友からきいた話だそうです。やせっぽっちでなまっちろい顔をした彼らに精をつけさせるために牡蠣を腹一杯食べさせます。すると彼らはクスリでハイにでもなったようになって、町の通りで大暴れ、警察のごやっかいになったのだそうです。牡蠣発作の逸話はほかにもあって、大事にしていた老馬が牡蠣を食べさせたとたんに雌馬を見つけるがとたんに突進していくようになってしまったり、競馬のいかさまにつかわれていた、という話まででてきます。

 フラッド氏の友人のなかで、変わった趣味をもっているのは、ムーニー氏です。新聞の死亡記事をたのしみにしています。フラッド氏も、年寄りになればわかるのだ、といいます。同じ年ごろの人間の死はたしかに心を高揚させるのだそうです。ただ、我慢ならないのは、ムーニー氏が自分にもそういう目をむけはじめたことだと憤慨します。なるほど、複雑な感情です。

 この本の文章の流れがまた気持ちがよくっていつまでもひたっていたい気分にさせられます。無駄なく、そつなく、なんだけれども、がりがりの骨ばかりにはしてなくて、たっぷりおいしい肉がついている感じです。

 表題の短篇のシリーズと、最後に「マクソーリーの素敵な酒場」という短いお話が収められています。この「マクソーリーの素敵な酒場」が著者ミッチェルの出世作だそうです。

 まあ、しかし、この「オールド・ミスター・フラッド」がじつは創作というのにはびっくりさせられました。ほかの話も読みたいなー。

"オールド・ミスター・フラッド"
ジョゼフ・ミッチェル
翔泳社
- 円
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2007年1月11日

PLUTO

Amazon.co.jp: PLUTO (3) ビッグコミック: 本: 浦沢 直樹,手塚 治虫,手塚 真 自分が子どものころにはもう手塚治虫はひとつふたつ前の世代のマンガ家でした。大御所ではありましたが、第一線にいるようには見えませんでした。作品をリアルに感じとれず、古典としてとらえていたように思います。
 浦沢直樹が手塚治虫の鉄腕アトムの未完の長いシリーズ「地上最大のロボット」をリメイクすると聞いても関心をひかれず、 西原理恵子センセーが、浦沢直樹じゃなく私にアトムを描かせろと煽っていたら、描いてもいいですよといわれて大あせり、ちょっと描いてはみたものの、やっぱりだめでしたといやいやあやまる、というネタでギャグマンガを描いていたのを読んだぐらいのもので、その後はすっかりわすれていました。

 坂本龍一のJ-WAVEの番組のPodcastが今回(12/25, Vol.17)、浦沢直樹とのトークでした。浦沢直樹の話に耳を傾けているうちに「PLUTO」にだんだん興味がわいてきました。さっそく現在でている1〜4巻を買い、お正月、寝る前のひとときにちょこちょこと読んでいきました。
 
 スイスで山火事が起こり、その中で有名なロボット"モンブラン"がバラバラになって見つかります。おなじころ、ドイツではロボット法擁護団体の幹部がころされます。その日から、世界でも有名なロボット、ロボットに関係する人間が、ひとりずつころされていくようになります。徐々に、被害者の関係が見えはじめ、そして犯人の姿が闇に浮かびだします。

 「アトム」は1巻の終わりから登場します。主人公はロボットの刑事"ゲジヒト"です。原作にも脇役としてでています。その名は、ドイツ語で"顔"、"表情"、"アイデンティティ"を意味する言葉だそうです。

 4巻でもまだ序盤、PLUTOがはっきり姿を現さないとお楽しみははじまりません。原作は結末にいたるまえに作者が登場してお話をやめてしまうのですが、こちらはそれを続けるということで始めたのですから、はやく終盤にたどり着いてほしいものです。

 前述のPodcastで、浦沢直樹が、自分が描く登場人物について、"エキスパートというよりも、なにか欠損している人間、そっちのほうが描きたいかもしれませんね"、"なんでおまえはこういうふうにしか動けないんだ、というようなものがドラマをつくるような気がするんですね"、"この事態、こういうふうに切り抜ければいいじゃないかというのが、本当の賢者だったら浮かぶかもしれないんだけど、それがどうしておまはこういうふうにしかやれないんだという人間"といっていて、その造形の姿勢にとても共感しました(29:24あたりから)。
 「PLUTO」でも、ロボットの頭脳は"間違わない"ことをめざして作られるのが常識なのですが、アトムを作った天馬博士は「間違う頭脳こそが完璧なんだ」「その時、誕生するのだ。地上最大のロボットが」と物語のキーになる発言をしています。プルートウは、悲しいけれど愛おしい存在としてふたたび誕生するんでしょうね。

"PLUTO"シリーズ
浦沢直樹
ビッグコミック(小学館)
通常版各550円/豪華版は各1500円ぐらい
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2007年1月 6日

徳富蘇峰 終戦後日記

Amazon.co.jp: 徳富蘇峰 終戦後日記——『頑蘇夢物語』: 本: 徳富 蘇峰 いわゆる"右より"の思想家が戦時中の日本を批判した書物です。晩年に回顧録の形で口述筆記させたものです。

 徳富蘇峰(Wikipedia:徳富蘇峰)は、皇室中心主義の思想家で、本のなかでたびたび語られていますが、もともとは平民主義で歴史を研究した末に皇室を中心にした体制が一番よいと考えるようになったそうです。また貴族主義は批判しており、天皇の下での人民の平等をうったえています。

 本のはじめ部分は、終戦直後の当時の情勢を批判したもので、皇室中心主義の立場が強く打ち出されていて、その勢いはさすがに鼻白むほどで、立場がことなるとやれやれと読む気をなくしてしまうと思うのですが、だんだんと批判が思想的なものから具体的になってくるので、多少がまんしていただきたいところです。

 批判のいくつかを見ていきましょう。

 まずは天皇批判です。現在ふつうにいわれている天皇の戦争責任問題とはちがって、天皇が戦争に関わらないようにしていたことが批判されています。当時の昭和天皇は、国民が決めたことにNoとはいわない、政治指導もしないという、イギリス式の立憲君主制の立場をつらぬいてきました。いまの象徴天皇とほとんど変わらない態度をとっていたんですね。指導力を発揮していてくれてら、事態はこんなにはならなかっただろう、というわけです。天皇の戦争責任というのは、じつは皮肉にも、天皇が専制君主でなかったことにつながるんですね。

 つぎは物資の不足問題。武器を作るための金属がたりないなどといって家にある鉄製品が持っていかれたという話はよくきくんですが、これもまた私たちが思うような困窮の状態とはちがっていたようなんです。集められた鉄製品は集められただけでほとんどのものが使われず放置されたいたのだそうです。また銃弾の規格が途中で変わり、材料はあっても生産が間に合わず、古い弾はたくさんあまっているのにぜんぜん使えずという、笑い話のような事実も明らかにされます。食うにも困っていた国民が大半だったのに、軍には豊富に物があました。それ自体はまあ、しょうがないところもあります。戦っているひとに不自由させたくないじゃないですか。しかし、その後がだめで、戦後、その物資を軍で山分け、あるいはひとりじめしたりしたりして、家に戻ってくる兵士がすごい大量のおみやげを持って帰ってくるので、つらいのをがんばって戦ってくれているんだと信じていた兵士に当時の人たちはかなりの幻滅を抱いたようです。

 こう読んでいくと、当時の情勢を知らずに、戦前の日本を批判してきていたんだなあと思います。ほんと、何を批判していたんでしょう。かつての自分を笑ってしまいます。

"徳富蘇峰 終戦後日記——『頑蘇夢物語』"
徳富蘇峰
講談社
2940円
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2007年1月 2日

2006年の本と映画トップ10

 去年、読んだ本、観た映画のランキングです。
 よく見に行っているブログ「バベルの図書館」でおこなわれていたのをパクりました。
 ビール片手に理不尽な順位を容赦なく鬼のようにつけていきます。

2006年に読んだ本トップ10

  1.日日日「ギロチンマシン中村奈々子」人間とロボットの違いをうんぬんするのはSFの主要なテーマのひとつです。技術が発展すればロボットと人間の境目は見た目にはわからなくなります。それでもいろいろとあーでもないこーでもないとその区別が論議されてきました。その長い歴史のなかでも気づかれてこなかった人間とロボットの区別の定義をあっさり小さな女の子にいわせてしまったこの作者の着眼点にびっくりさせられました。
  2.日日日「アンダカの怪造学IV」いくつかの挫折ののちに自分の思想を洗練させつつある主人公がその手を広げていきます。物語は、閉じられた世界ので出来事が描かれます。構成もシンプルながら閉じられた世界をそのままに配置されています。
  3.工藤美代子「われ巣鴨に出頭せず--近衛文麿と天皇」レビュー)。当時なにがあったかを黒く塗りつぶして平和主義だけ教えてきた戦後教育。その穴を埋めるための本のひとつ。
  4.アンソニー・ボーデイン「キッチン・コンフィデンシャル」レビュー)奇人変人魑魅魍魎。その腕だけで世を渡っていく料理人のヤクザで魅力的な世界を描いています。
  5.ビョルン・ロンボルグ「環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態」レビュー)本当のこと。
  6.山本七平「聖書の常識」レビュー)本当のこと。
  7.M・ラマー・キーン「サイキック・マフィア」レビュー)心霊・超能力はインチキから始まった。
  8.後藤繁雄「五感の友」レビュー)さまざまな分野で活躍している独特な人たちの智慧。
  9.町山智浩「映画の見方がわかる本」レビュー)ふつうの娯楽映画だと思っていた「ロボコップ」があんなにすごいものだったなんてー。
 10.リン・ティルマン「ブックストア --ニューヨークで最も愛された書店」レビュー)好きな本めずらしい本だけを売る本好きによる本好きのための書店のその始まりと終わり。


2006年に観た映画トップ10

  1.16ブロック レビュー
  2.武士の一分 レビュー
  3.ナイロビの蜂 レビュー
  4.ニューワールド レビュー
  5.フラガール レビュー)蒼井優がいい。
  6.太陽 レビュー
  7.ソウ3 レビュー)「輪廻」とどちらを入れようか迷った。ミステリーのパズルがあるホラーは好きです。
  8.ブレイブストーリー レビュー
  9.プライドと偏見 レビュー
 10.夜のピクニック レビュー


 映画は映画館で観たものだけにしました。

 本は、"本当のこと"にずっと興味があったようで、そういうものを読んでいました。
 映画はなんでしょうね、形がいいものが好きになります。構成の善し悪しです。

 こういうランキングって心理テストでいうと一番目は"見栄"なんだそうですね。こういうふうに見られたいという欲求が強くでているそうですが、でもまあ、あてにはなりません心理テストなんて。